私はあなたを理解していますか
中学一年生の女子が急に怒りっぽくなった。母親の言うこと、することに、いちいち腹をたてた。初めは母親も言い争っていたが、最近では娘に何も言えなくなった。父親は母親の対応に問題があると言うだけで、自分は傍観者であった。
その子に会って母親の何が気に入らないのか聞いてみた。「全部だ」と答える。あなたのことを分かってくれないのか、と言うと、「分かろうともしない」と吐き捨てた。あなたのお母さんはあなたのことを何も分かっちゃいないんだ。すると、「その通りだ」とちょっと笑った。いつ頃からなの?「もう昔からだ」と言う。小学生の頃から?「もっと前から、生まれたときからかな」少し声を立てて笑った。
今までよく我慢できたと自分でも不思議に思う、しかし中学に入って急に限界がきた。母と通じないから、父とも通じようがない。このままだと自分は家にいる意味がない。そんな内容の話をして彼女は涙ぐんだ。
子供たちは、いつ頃から不安定になっていくのだろう。いつ頃から自分の両親に対して不満や不安を抱くようになるのだろう。何を言っても聞いてもらえない。どんな答が返ってくるか分からなくなったとき、子供はとまどい、行動をとめる。そして、それにともない感情が激化する。
親子の場合、親は子供のことをよく分かっていると思っている。しかし、子供はまったく分かっちゃくれないと思っている。このギャップは、どこから生まれるのか。親の子を見守る姿勢が、どこかで希薄になってきているのだ。理解しようという気持ちが、親も子も日々の暮らしの中で薄れてしまったのだ。
もし、あなたのことが理解できていなかったら言ってね、と母親が子供に言ったら、子供はどんなに救われた気持ちになるだろう。自分でもどうすることもできない激しい感情がどんなに鎮まるだろう。親が子に、子が親に、夫が妻に、妻が夫に、先生が生徒に、生徒が先生に、先輩が後輩に、後輩が先輩に、自分が自分に、私はあなたを本当に理解しているのかと常に聞きなおしたいものだ。