山中鹿之助の教訓

子供を指導していると、山中鹿之助の言葉を思い出すことがある。父が小学一年生になるかならないかの私によく話してくれた講談のひとつだ。その頃はその意味もよくわからなかった。

鹿之助は戦国時代の武将だ。彼は小さな頃から「我に七難八苦を与えたまえ」と神仏に祈ったと言う。子供心に何でそんなことを神様に祈るのだろうと不思議だった。私は神様にそんなことをお願いする鹿之助が変な人に思えた。だからその奇異に感じた言葉が記憶に残ったのだろう。私も子を持つ親になって、私の父が、なぜ鹿之助の話を私にしたのか分かる気がする。難しいこと、苦しいことが人間を成長させる。だからお前も、どんな困難が目の前に現れても逃げることなく、挑み、乗り越えていってほしい、と願ってのことであろう。

私は子供たちに人生の処し方を指導しているわけではない。英語や数学といった教科の指導をしている。しかし時には、子供たちの問題に向かう姿勢が様々なのを見ていて、子供たちの学習する姿勢はそのまま彼らの人生の処し方なのだと思うことがある。そして学習は大人の仕事と同じで、人間の基本的な物事の考え方や処理の仕方を学ぶことなのだと。だからこそテストの点数のためではない本物の勉強をしてほしいと思う。

幸い教科学習は次々に分からない問題が現れる。学習は人生そのものだ。その人生にどう立ち向かうか、それを常に学習しているような気がする。テストのための勉強は辛くなるが、己を磨くためのものと考えれば教科学習に取り組む意味も違ってくる。山中鹿之助の「七難八苦」どころではない。それ以上である。あとは教科学習に立ち向かうときに、鹿之助のような気持ちが持てれば言うことはない。

嫌いなこと、難しいこと、をひとつひとつ克服していくことに喜びを見出していくのが人間だ。好きなこと、易しいことばかりを求めているうちに人間の尊厳が失われていくような気がしてならない。